目が覚めた瞬間に叫ばなかった自分を褒めてやりたい。
誘惑に負けて
研修医時代からのクセで1時間おきに目を覚ますようになった。
どれだけ熟睡していても1時間したらクリアな状態で目を覚ますことが出来る。
いつものように目を覚ませば目の前、というか、すぐ上に愛しのヒロさんの顔が見える。
「――――っ!!!」
瞬間的に叫びそうになって咄嗟に口を押さえる。
カクカクと首を前後に激しく振りながら器用に熟睡しているヒロさん。
テレビは消されていて、近くのテーブルにはヒロさんお気に入りの本が置いてあった。
ゆっくりと、ヒロさんを起こさないようにそっと起き上がるとパサっと服が落ちる。
ヒロさんが羽織っていたパーカー。ヒロさんを見てみれば長袖のTシャツを一枚着ているだけ。
風邪、ひいちゃいますよ、そう思うけどそれ以上に嬉しくてヒロさんの顔に手を伸ばせばガクッと後ろに反った。
落ちるんじゃないかと思うくらい勢いよく仰け反った。ちょっと怖いかもしれない。
本当に落ちても困るし、起きた時に首が痛くなるからとヒロさんを抱えてベットに連れて行く。
ベットに下ろすと干したばかりのフカフカの布団が気持ちいいのか潜り込む。
(あ〜、ヒロさんは本当にかわいいなぁ……)
デレデレと眺めているとヒロさんの右手がもぞもぞと布団の中で動いているのが見えた。
何してるんですか?と布団をめくるとダブルのベットを探るように右手をパタパタ動かす。
そこに何も無いと分かると2つある枕のうち自分が使っていないほうの枕を抱き枕のように抱え込む。
髪を撫でるとヒロさんがうっすらと目を開けた。
半分以上夢の中にいるヒロさんは野分、と小さな声で呼ぶ。
すぐ近くに入る俺に気付かないで、寂しそうに枕を抱えたままだ。
「ヒロさん、俺ここにいます」
そう言ってベットに座るとヒロさんが枕から手を離して、こっちに手を伸ばしてくる。
その手に誘われるままにベットに入り込むとヒロさんが俺の腕の中に入ってくる。
あぁ、本当にいつまで経ってもヒロさんの誘惑には勝てない。
完全に夢の世界に帰ってしまったヒロさん。ねぇヒロさん。俺本当は晩ご飯作ろうとしてたんですよ。
さっきまで枕を握っていた指は、いま俺の服を握っている。
その指を起こさないようにゆっくりと離す。そんな風に縋らなくても俺はここにいます。
「ヒロさんが誘惑するからだめなんですよ。だから、今日は晩ご飯もお風呂も我慢してください」
いつだって、あなたの誘惑には勝てないんです。
―――――あとがき―――――
午睡のススメの野分verです。
ヒロさんの眠っている間のお話ですね。
実は腹黒野分の予想もあったのですが、完璧に裏切ってます。
ほのぼの系です。
ちょっぴり切ない要素も入ってます。
そして途中にキモい野分もいます。
布団のなかでモソモソ動きながら野分を探すヒロさんがどうしても書きたくて、
でもヒロさん視点のお話も書きたくて、結局全部いれてみました。
みなさん、いかがでした?
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