アンタは道端の草に似ている。






       草の君






ぺらぺらと本をめくる俺の隣で宮城はキーボードを叩いている。

「あー、飯でも食うか」

伸びをしながら、俺のほうを見ずに言う。

「何か作ろうか」
「いや、今日は俺が作る。忍チンはそこで待っててくださいませよ」

ふーんと返事をして視線を本に戻した。
そりゃ、宮城のほうが俺より料理上手だ。レパートリーも多い。
だからそっちのほうがいいんだろうけど。
20分程したらキッチンからうまそうな匂いがしてきた。
コトッとテーブルに置かれた料理は別にそこまで豪華なものではないけど、一つ一つが美味い。

「いただきます」
「ハイ、どーぞ」

アンタは草に似ている。
ただそこに在って、誰がいてもきっとさほど変わらないんだ。
関係なさそうに風に揺らいで、俺がいてもいなくても変わらない。

「お味は?」
「うまい」

それがひどく嫌だ。
雨が降り続いても、日照りが続いても変わらない。
踏まれても、むしられても変わらずそこに根ざして。

「それはよかった」

俺だけを見て欲しい。
俺のせいで何か変わって欲しい。

「あの、さ」
「んー?」

もっと俺のことちゃんと見ろよ。
もっと、もっと、もっと。

「後で勉強みて欲しいんだけど」

俺を知って欲しい。俺をもっと。


アンタは道端の草に似ている。



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