本当は離れたくない
でもそんな我侭を言うことすら、今の俺には出来ない







         3番線に電車がまいります







最終電車
真冬の真夜中に出発する電車
ホームには酔って足元の覚束ないオッサンが数名
周りのことを気にもせず白い息が一つになる程くっついて、2人きりの世界を形成する恋人達が数組
人気の少ないホームなのに俺たちは少し離れて立っている






「後、何分?」
「…10分位で来ますね」
「そうか」
「早く着きすぎちゃいましたね」
「乗り遅れたら困るんだから、別にいいんだよ」
「……、そう、ですね」
「明日1コマ目から入ってんだろ?」
「はい」








他愛ない会話
ゆっくりと時間が過ぎるのに、駆け足でやってくる電車






“泊まっていけば?”
そう素直に一言言えたなら、きっと野分は“はい”と言って笑ってくれるだろう
それが出来ないでいるのは、偏に俺の複雑骨折した性格のなせる業
なんて下らない感情
“恥ずかしいから”手を繋ぐことも、寄り添うことも出来ない
本当はずっと一緒にいたいのに
別れることもなく、永遠に傍にいれたらと思うのに








「ヒロさん、寒くないですか?」
「…寒ぃ」
「じゃあこのマフラーどうぞ」
「は?いや、お前だって寒いんだから…」
「俺は駅から家まで近いですから」
「でも…」
「また、返してもらいに来ます。それ、気に入ってるんで、近いうちにでも」
「…わかった」
「電車、来ちゃいましたね」
「あぁ…」
「ヒロさん、気をつけて帰ってくださいね」
「ガキじゃねぇんだから大丈夫だよ」
「もし俺ぐらい身長ある奴だったら分からないでしょう」
「そんな馬鹿でかい奴がホイホイいてたまるか」
「あ、ヒドイ!!」









本当は離れたくない
でもそんな我侭を言うことすら、今の俺には出来ない
だからせめて傍にいられる時間を増やしたい






―3番線に電車がまいります






―――――あとがき―――――
付き合い始めて2〜3年ぐらいころだと思っていただければ

同棲するまでは行ったり来たりしてた時のエピソードはあんまり描かれてないので
想像するのが楽しいですね
でもヒロさんは最終電車より10時くらいの電車のほうがイメージに合いますけどね
生真面目な感じが…



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