本当のことを言いたくない…
でも言わないと…


入院させられかねない






     病気の功名





「…野分」
「はい」
「ちょっと来い」
「へ?」
「いいから」
「ッ…顔、顔近いです!ヒロさん」
「うるせぇ、じっとしてろ」
「…何やってるんですかヒロさん」
「熱計ってるんだよ」
「…おでこで?」
「?そういうもんじゃねぇのか?」



(ヒロさんってたまに不意打ちしてきますね)



「熱がある…」
「へ、そうですか?」
「ちょっと待ってろ体温計持ってくる」


ーピピッ


「36.9℃…」
「ですね」
「お前さ、平熱どんくらいだっけ」
「そんなに高いほうじゃないですけど」
「だよな」


(でも、まぁ心配することでもないか)


「野分」
「なんですか」
「脱げ!!」
「はい?!って何やってるんですかヒロさん!!」
「うるせぇ、今すぐ脱げ全部脱げ」
「ヒロさん?!」
「脱いだら着ろ」
「うわ、…これパジャマですよ」
「分かってるよ、いいから早く着ろ風邪が悪化する」


(悪化する?)


「あのヒロさん」
「さっさと着ろって言ってんだろ」
「は、はい」
「よし、着たな」
「はい…」
「こっち来い」
「そっちは寝室ですよ」
「分かってるよ、そんなことは」
「あのヒロさん」
「何だよ」
「何のために寝室に行くんでしょうか」
「決まってんだろ、寝るためだよ」
「…」


(寝るため?)


「布団入れ」
「へ、あ、はい」
「よし、じゃあちゃんと寝てろよ」
「あの、ヒロさ…」
「起きるな!!寝てろ!!いいから寝てろ」
「…はい」


どうやらヒロさんは俺が風邪をひいていると思ってるらしい


「ヒロさん」
「起き上がるな!!」
「はい!…あのヒロさん」
「ん?」
「何で俺は寝てるんです?」
「風邪ひいたら暖かくして寝るのが一番なんだよ」
「はぁ」
「あ、もしかして寒いか?毛布とか持ってきたほうが…」
「いいえ、そんなこと無いんで大丈夫です」
「本当か?あ、氷枕とか…」
「大丈夫です」
「のどとか痛くないか?」
「痛くないですよ」
「あ、ティッシュ取ってくる」
「あ…」


ーバタン


(体調が悪いのは…多分最近寝不足だからだろうな)



(早めに言った方がいいよな)



(でも、もう少しだけ秘密に…)


「枕元にティッシュ置いとく。あ、隣に水置いとくから」
「あの、ヒロさん…っゲホッ」
「あ、薬。熱さましと咳止め…薬なんて置いてたっけ…」
「ヒロさん、大丈夫です、ちょっと咳き込んだだけなんで」
「すぐ買ってくる。あ、ついでになんか食べるもんも…なんか食べれそうか?」
「へ、あ、はい食欲はあるんで…」
「やっぱお粥だよな、いや林檎?桃の缶詰?…ねぎ?」


(…俺はそんなに体調が悪そうに見えるんだろうか)


「あの、ヒロさん俺別にどこも悪くない…」
「ちょっと出かけてくる、すぐ帰ってくるから寝てろよ」
「いや、だから」
「分かったな」
「……はい」



(不謹慎なんだろうけど…嬉しい)




(…でもこのままじゃ駄目だ)







「熱下がってないな…ってかこいつ平熱が低いからどんくらい辛いのか分からん」


…ヒロさん?


「ごめんな野分」


…ヒロさんの声がする


「辛いよな」


ヒロさんの手
気持ちいい


「大事な時期なのに…ごめんな」


ヒロさん


「野分」



ヒロさんがこんなにも心配してくれるなんて
たまには病気も悪くないかもしれない



怪我の…いや
病気の功名



―――――あとがき―――――
この後は皆さんのご存知の通り…


月の輪さん
リクエストbU
…ものすごい中途半端な終わり方
苦情があっても申し開きの仕様もございません






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