ウサギさんとの生活って結構普通じゃない
何がって生活の基本が庶民と違う……







      思い出を作ろう







「美咲、何見てんだ?」
「あ、これ?雑誌の水族館特集」
「水族館?」
「そ、水族館」
「好きだったのか」
「好きだよ、動物園も水族館も」
「……行くか?」
「え、いいよ、だってウサギさん忙しいでしょ」
「俺も言ってみたいしな」
「……ウサギさん、行ったこと無いの?」
「いや、取材で一回行ったことがある」





(あ……そっか、そういうことしない家だ、って言ってたっけ……)





「う、ウサギさん」
「ん?」
「……行きたいな、水族館」
「明日講義午前中までだったな、終わったら迎えに行く」
「わかった」









「……咲、美咲」
「へ?!あ、角先輩」
「講義終わったぞ?」
「え……」
「何?心此処に在らず、って感じ?」
「あ〜」





(浮かれてんだな、俺)





「宇佐見さん、来てるぜ」
「え、嘘」
「ホント。校門の前」
「……」
「相変わらず存在感ある人だよな〜」






(やっぱり迎えに来てもらうんじゃなかった……)





「早く行ったほうがいいんじゃねーの?」
「そうですね、じゃあ失礼します」





「ゴメン、ウサギさん。待たせた?」
「別に時間前だし、大丈夫だよ」
「そうだけど……」
「美咲」
「へ?」
「どうぞ?」
「・・・・・・」
「どうした?」
「別に」




(どうぞって…そんな女の子にするみたいなエスコートなんてしなくていいのに)







「やっぱ平日だし家族連れとかいないね」
「そうだな」




(っていうか、なんかカップルばっかりだ)




「美咲?」
「へ?何」
「いや、ボーっとしてたから…楽しくないか?」
「まさか、楽しいよ」
「そうか、よかった」




(何か…いかにも“デートです”って感じでちょっと恥ずかしい)




「あ、ウサギさん、あっち。ペンギン
 そーだ、ねぇ後でイルカショー見に行こ。何か凄いよね、都内でイルカショーって!」
「何もどんなにあせって見ること無いだろ」
「そりゃそーだけどさ」
「あの…」
「へ?」





(・・・誰?)





「あの、宇佐見先生ですよね」
「あ…えっと」
「やっぱりそうだ、私宇佐見先生の大ファンなんです!!いつも作品見させていただいてます」
「あ…どうもありがとうございます」


「え、嘘、宇佐見先生?」

「うわ、マジだよ。あれ宇佐見秋彦じゃん」

「待って私ファンなんだけど」

「あの宇佐見先生」

「あの…」

「宇佐見先生」





(見つかっちゃった…)





やっぱりウサギさんって凄いんだなって痛感する
こんな風にちょっとしたことで人山の中心に行っちゃう…
俺なんて本当に一般庶民で
ウサギさんは日本中の人が知ってるような人で
俺とウサギさんの間にある距離がなんとなくとても遠い…





(…ちょっとトイレ行ってこよ…)






「あれ…?」




(さっきまでここにいたのに)



さっきまでウサギさんが居たところには誰もいなくなっていた…



(…どこに居るんだろ)





(やっぱり見つからない…
 下手に探すより一回車に戻ったほうがいいかな)





「ウサギさん?!車にいたの?」
「美咲!今までどこに行ってたんだ。探したぞ」
「あ…ゴメンちょっとトイレに行ってたんだ」
「そうだったのか・・・。・・・帰るか?」
「うん」






「…悪かったな」
「へ、何が?」
「せっかく来たのにゆっくり出来なかった」
「しょうがないじゃん、ウサギさん有名人だし。それっていいことだしね」
「美咲・・・」
「………じゃ、じゃあさ…」
「ん?」
「また今度…連れてきてくれる?」
「…!」
「〜〜〜〜〜」
「あぁ、また今度来ような」




ウサギさんは有名人で
普通のデートなんて中々出来ない
でも、それはそれでいいのかな、なんて最近思うようになった
だってこんな風なことウサギさんじゃないとありえないことだから






「ウサギさん」
「何?」
「これは?」
「白熊のヌイグルミ」
「そうだね」
「水族館で買ったんだ」
「へぇ…」
「可愛いだろ」
「ウン、ソウダネ」
「どうした?」
「どうしたじゃねぇ!!
 なんで何十体も買い込んでんだこのドンブリ作家!!
 無駄に頭良いんだから金勘定ぐらいきちんとやれ!!」



兄チャン…
ウサギさんが普通じゃないのは知ってます…
でも俺は一般人です…
俺にはウサギさんの考えがワカリマセン…




高橋美咲 19歳
価値観の壁にブチ当たり中…





―――――あとがき―――――
どこら辺が「思い出を作ろう」なのかというと
水族館に行ったことです
ウサギさんにとっては(ほぼ)初体験で…
美咲にとってはハプニング的なイベント
ということで…勘弁してください
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