愛の形は人それぞれなのだ、と改めて確認した。






       愛妻弁当の行方





朝、目が覚めてキッチンに顔を出せば、野分の満面の笑顔が返ってきた。
ニコニコと何がそんなに嬉しいのか知らないが、とても機嫌が良いらしい。

「何かあったのか」
「あ、おはようございます。ヒロさん。今日は早起きして、それでちょっと」

昨日3日ぶりに病院から帰ってこれたばかりだというのに、元気なことだ。
今日ぐらいゆっくり眠っていればいいのに。
さぁ、早く顔洗って着替えてください、と半ば強引にキッチンから追い出された。
言われた通り準備をして朝食を摂るためにキッチンに戻る。
さっきは気付かなかったが、机一杯におかずが並べられている。
朝っぱらからどんだけ食べるつもりなのか。
見れば、ほうれん草のおひたしに始まり、ひじきや卵焼き、肉とピーマンの炒め物にウインナーまである。

「あとは詰めるだけです、ヒロさん」

胃に?そう思っていたら野分がゴソゴソとスーパーの袋から使い捨ての弁当箱を取り出した。
なるほど、これは弁当用のおかずだったのか。

「じゃあ、ヒロさんはこっちに詰めてください。俺はコッチのを詰めるので」

そう言って大きめの弁当箱を俺に渡した。因みに野分は俺のより少し小さめの弁当を詰めだした。

「大きくないか?」
「そんなことないです、それぐらいないと足りませんから」

ふーん、と適当に返事をし、俺も詰める。
完成した弁当箱は、俺にしては中々きれいに詰められたほうだと思う。
野分のほうはというと、ぴっちりと一分の隙もなく綺麗に詰められている。
本当に何をやらせても器用にこなす奴だ。
朝食を食べて出勤時間が近づく。

「じゃあ、先に行くわ。あ、皿は流しに置いとけばいいから。朝はお前が作ったんだから片付けはやるなよ」
「わかりました。じゃあお願いしますね。あ、ヒロさん、はいお弁当です」

バンダナで包まれている、野分の詰めた小さめの弁当箱を渡される。
あぁ、だから俺が大きい弁当を詰めたのか。全く、恥ずかしい真似を。

「なんか、手伝えば良かったな」
「そんなことないです。ご飯は昨日ヒロさんが洗ってくれてたんですから」

だからこれていいんですよ、と笑う野分にうっかり見惚れてしまいそうになった。

「あ、あぁそうかよ。じゃあ行ってくる」
「はい、いってらっしゃい」

にっこりと笑った野分に見送られながら出ていく。



「お、上條。今日は彼氏の愛妻弁当かぁ?」
「うるさいですよ、教授。さっさと食堂行かないと席なくても知りませんよ」

まったく、こういう日に限ってこの人は嗅ぎつけてくるのか。なにかしらセンサーがついているに違いない。

「あー、まぁ、俺も弁当で」
「見せびらかしに来た訳ですね」
「ま、まぁ、一人で食べるのも味気ないし、一緒に食べようじゃないか」
「お茶、淹れますから、ちょっと待ってください」
「悪いな。おー、美味そうな弁当だな」
「ちょ、何勝手に見てんですか。はい、お茶です」
「あ、どうも。いやー料理上手な彼氏がいていいなぁ」
「教授だってどうせあの子が作ったんでしょう。いったいどんな」

どんな弁当なんです、と最後まで言うことが出来なかった。
二段弁当の二段目にはぎっしりとキャベツの炒め物(キャベツのみ)が敷き詰められていた。隙間なく。

「ま、見慣れればこんなもんさ」

と教授が照れたように笑う。いいんですか、それで。何、満足しちゃってるんですか、アンタは。
まぁ、当の本人が満足しているのなら俺が口をはさむことはできないのだろう。

「ま、まぁ、米があれば」

大丈夫、ではなかった。
弁当の一段目には、いや一段目にもぎっしりとキャベツ炒め(キャベツのみ)が敷き詰められている。

「キャベツに恨みがおありで?」
「いや、どっちかていうとキャベツのほうが、俺に恨みをもってんのかな」

あぁ、と妙に納得してしまう。
それでも、おかずを寄越せ、と言わないあたりが教授のあの子に対する愛情なんだろうなと心で思う。

「お互い年下には苦労させられるな」
「そう、ですね」

それでもお互い、受け入れちゃってるんですよね。




―――――あとがき―――――
エゴイストに見せかけてまさかのテロリストおち。

あ、何で使い捨てのお弁当箱かというとですね、
野分が帰ってこれるかわからないからなんです。あと、ヒロさんに洗う手間かけさせないためです。
結局、朝ごはんの分はヒロさんが洗うことになっちゃいましたけど、それはヒロさんの意志なので。
地球に厳しく、ヒロさんに甘い野分は、地球を滅ぼすくらいヒロさんが好きなんです。
補足しないと伝わらないなんて、駄目すぎる……




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