カクレンボには自信がある。だって見つかったことがないから。




コノユビトマレ
「見つけた」 ぴょこっと弘樹が小さな木の間から顔を出した。見つけるの早いよ。ちゃんと10数えた? 今日は学校が休みだから朝から弘樹と遊んでいる。 さっきまでは部屋で本を読んでいたけど、天気がいいから外で遊ぶことにした。 今してるのはかくれんぼ。 最初は「子どもの遊びだ」とか言ってたくせに、始まったとたんムキになってあちこち探したんだろう。 服に葉っぱや土がいっぱい付いてる。 「ねぇ、弘樹。服、泥だらけだよ?」 俺に言われてやっと気付いたのか、ぱたぱたと土をはらう。 「お前かくれんぼ下手なんだな」 「そう?あんまり見つかったことないけど」 弘樹は、ふうんと言いながら顔に付いていた土をこすった。本当なんだけどな。 「まぁ、いいや。やっぱりちがうことして遊ぼう。二人でかくれんぼしてもつまんないよ」 「じゃあ何したい?」 「う〜ん、」 次に何をしようか二人で考えてたら田中さんがよびに来た。多分おやつの時間。 今日は弘樹の好きなイチゴのケーキを用意してもらった。弘樹はよろこんでくれるかな? 「おやつだって。もどろっか。何して遊ぶかは食べながら考えようよ。今日はイチゴのケーキだよ」 「やった。俺、あれ大好きなんだ」 田中さんは俺達と少しはなれた場所にある木に話しかけてる。ほらね、やっぱり見つからないよ。 きっと弘樹が特別なんだ。弘樹だから見つけられるんだよ。 そう思うとうれしくて、俺は弘樹の手をつないで家まで走った。 弘樹はビックリした顔してるけど、手をはなさない。小さいことだけど、こういうのはうれしい。 弘樹は俺と手をつなぐのイヤじゃないかな?ちょっと不安になったから振り返った。 そしたら弘樹は下を向いてぎゅって手をにぎり返してくれた。 「ねぇ、弘樹。やっぱりもう一回かくれんぼしようよ。次は絶対に見つからないから」 「いいよ。でも絶対見つけられるよ。自信あるもん」 カクレンボには自信があった。それは昔の話。 今じゃすぐに見つかっちゃう。でも、今のほうがずっとたのしい。 ―――――あとがき――――― スガシカオ 「コノユビトマレ」を聞いてて思いついたものです。   希望を見つけるの嫌になっちゃった人   僕とかくれんぼしようよ   必ず 君 みつけるよ の部分が大好きなんです。 かくれんぼって見つけてくれる人がいて初めて成立する遊びですからね。 ミニマムのお話は結構好きです。 でもどこまで漢字を使っていいのか、どんな風に思うのか、どんな言葉かを考えるのが難しいです。 なんか基準とかあるんですかね。
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