例えて言うなら、ウサギさんは水の上に立っている。






伸ばす手。






大きな水溜りみたいな場所の丁度真ん中。
静かに波紋を作って遠くを見ていた。
俺はそれを陸から見てあの不思議な存在にただ、驚くばかり。
あの時、ウサギさんは俺の存在なんか気付いてないみたいに背を向けていた。
俺もまた遠くから見るだけで手を伸ばそうとはしなかったし、
新しい波紋を作ろうだなんて思うことはなかった。


「美咲。」


と、あの低い声で呼んで、大きな手で頭を撫でられる。
それは俺にとって凄く心地良いもので、気が付いたら俺は無意識の内に
一歩、ウサギさんの水溜りへ歩んでいた。


俺の名前を伝えるあの唇が、そっと触れる。
その度に俺の心臓は壊れそうなくらい高鳴るけど、嬉しくて、悔しくて。
また一歩、前に進み出る。


ウサギさんを全身で感じる。
ウサギさんが俺を好きと言う。
ウサギさんが笑う。


事あるごとに俺は一歩、また一歩と歩み出て、
水溜りの真ん中に立っているウサギさんに手を伸ばしていた。


(ねぇ、)
(ウサギさん、)


新しい波紋が水面に出来た。


(こっち向いて。)


やっぱり俺は水の上には立てなくて、体が沈みそうになる瞬間、
背を向けていたウサギさんがやっとこっちを向いた。


何やってるんだ。


ウサギさんは驚いた顔をして、沈む俺を引き上げた。
もう遠くは見てない。
俺だけを見てる。



例えて言うなら、ウサギさんは水の上に立っているような
不思議で、俺には理解し難い、本当に変人だ。
でも何時の間にかその不思議な雰囲気に飲み込まれて
手の届かない場所にいるその変人に手を伸ばした俺も相当の変わり者。
気が付いたら俺も水の上に立ってるんだ。



大好きなアナタと一緒に。








ロマンチカなんて書いたことないのに、
それを私に強制してくる素敵なお友達(笑)晴和さんへ。


2006,09,01  ちゃき


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