この部屋に居るのは私とアンタだけなのに
アンタは私なんて見てない




アンタの心はいつだって遥か遠く






      デッサン#3   womans side







『庸、別れましょう』
『は?何言って…』
『アンタの傍にいるのはもう限界、アンタだってそうじゃないの?』
『それは…』
『アンタは研究が一番、私には他の男がいる、こんな下らない生活終わりにしたほうがお互いの為よ』
『…そうだな』



((…少しは“待ってくれ”って言ってくれるかと思ったんだけどな…))




『…じゃあ、さよなら、荷物はまた取りに来るわ』
『わかった』











「理沙子、今日どこ行く?」
「ちょっと行きたいとこあるんだけど」
「いいよ、どこ?」
「…遠いよ」
「構わないよ、明日休みだし」
「ありがとう」
「どこ?」
「お墓参り」
「へ?誰の?」
「…“先生”の」
「…学校の?」
「高校のときの担任よ」
「へ〜、わかった、行こう」





「理沙子、着いたよ」
「…ねぇ、ちょっと待っててくれる?」
「?」
「一人で行きたいの」
「別にいいけど、大丈夫か?」
「うん、すぐ戻るから」
「気をつけてな」






「はじめまして、“先生”
 今日は報告があってきたんです
 ……私、庸と別れました。
 私は貴女になれなかった、庸の中には貴女しかいなかった…庸は貴女しか見てなかった
 庸の心はあの時から動いてなかった…、私では動かせなかった…
 私は庸の妻になって、庸に私を好きになって欲しくてそれなりに努力したつもりでした…でも、庸には届かなかった
 貴女に憧れて好きになった古典の研究に没頭して、私のことなんで少しも見てくれなかった
 他の男のところに行っても、何も言ってくれなかった…
 嫌いにもなってもらえなかった
 それが何より辛かった…哀しかった…
 それで、これ以上一緒に生活することなんて出来ないと思って別れました…」





貴女に花を手向けにきました
そして貴女に一つお願いがあってきました



庸は貴女のことを心から愛していました
でも、貴女は死んでしまって
庸は深く傷付いて誰かを“特別に”思うことに臆病になって…
私はその傷を癒してあげられるだけの人間ではなくて…
だから…





「庸にとって“特別な”人ができたら、庸がここに誰か連れてきたら…




 

 笑って、笑って許してあげてください。おめでとう、って言ってあげてください」





これは、妻として出来る最初で最後のこと…












穏やかな春の途中…
岬の墓地に
女性が二人…





悲しみよ
さよなら
未だ…春の途中…

 
 
 


――――――あとがき―――――
デッサン#3 womans side
ということなんですが…
その一節に“悲しみはいつだって女だけに降り注ぐ”というのがあるんです
それを聞いたら理沙子さんが浮かんできて…
この人はテロリストの中では被害者の部類に入るのではないかなと思います
宮城教授が“先生”のことを忘れていなかったとしても
結婚した以上夫としての責務があるような気がします…
まあ、理沙子さんも別の男性がいたという時点でいけないんでしょうがね…
でも「気に入ってもらおうと努力した」と言うからにはそれなりに頑張ったのではないでしょうか…
理沙子さんは忍チンと教授が出逢う為だけに作られた…という感じがしてちょっと複雑です…

デッサン#3 ポルノグラフィティ


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