踏み込んじゃいけない領域に踏み込んだときに
どう対処するか
それは時として
自分の明暗を分ける…





     人身御供     





「野分、悪ぃけど書類持ってきてくれねぇか。たぶん玄関にあると思うんだけど」
『あ、分かりました。すぐに届けます』



「何だ上條、忘れ物か?」
「…教授にお借りした資料を家の玄関に…」
「ああ…」
「すみません」



(ちょっとからかってみるか)



「あ〜、あの資料な〜実は今日の講義で使う予定だったんだけどな〜」



(嘘だけどな)



「あ〜、どうするかな〜」
「ッ…すみません」



(なかなか可愛らしい反応)


「あ〜、あの資料が無いと午後の講義に困るんだよね〜」
「本当にすみません」



お、本気で凹ませてしまったか…


こいつはどうも素直すぎる性格というか
反応が面白い



「ん〜、まあ良いさ。別にな」
「…」


何が面白いって
こうやって申し訳なさで顔が上げられなくなっているところ
目まで潤んでてホント新鮮な奴だ



こういう反応を見せられると
ついつい悪戯心が…




「上條〜」
「…はい」
「ちょっとこっち来い」
「へ?」
「いいから」
「あ、はい…」


ーぎゅううううう


「ちょ、きょ、教授何やってんですか!!」
「ん〜、まあちょっと大人しくしてろ」
「は、ちょっと離して下さい」
「おっと…」
「うわぁ…」



(げ、倒れる)


ードサドサドサ



国文系の研究室はとにかく本が多い
それ故雪崩が多い
そしてその本の多くがハードカバー
つまり
当たると痛い
本来なら即効で避けるところだが
上條と密着していて動けない
しかし、まさか自分より体の細い上條の上に落とすことも出来ず
結局は自分が背中で受ける…



「痛ってぇ…背中打った」
「だ、大丈夫ですか教授」



ーがちゃ


「ヒロさん、資りょ…う…」



「あ…」


やばい…



何がやばいか
今の俺は上條の上に乗っかっている
…いや、見ようによっては押し倒しているようにも…
そして上條の手は俺の背中に


ものすごく歪曲して見れば
本当にものすごく歪曲して見れば
…歪曲しなくても俺が上條に襲い掛かっているように見える


ましてやここにいる青年は上條の彼氏
そして俺は以前一度彼に殴られたこともある


(まあ、そのときは俺の好奇心が悪かったわけだが)


そのときは上條がかばってくれたおかげで一撃ですんだが
この状況もまた言い訳のしようが…



「何、してるんですか」


…地を這うような声、というのはこんな感じの声だろう



「の、野分」
「い、いや、ちょっと待ってくれ、何か果てしない誤解をしているようだが…」
「何を、しているんですか」
「い、いやだから」



…この目は…人を軽く殺せそうな…


この状況を何とかできるのは…


「いや、本が雪崩が起きて、教授に助けてもらって…」
「そうですか…」


(も、ものすごい目で睨まれているんですが)


「か、上條。俺研究室に戻るわ…」
「へ、ちょ、ちょっと教授」
「じゃ…」



俺は馬に蹴られる趣味もない
ましてや自分より背の高い男に殴られる趣味なんてない



そう、こういうときは


三十六計逃げるにしかず



『…ッ、野分…やめろって』
『何なんですか今のは』
『だか…ら、説明した…ぁ、のに』




俺の判断はあっていたらしい




上條
スマン


人身御供:1 人間を神への生け贄(にえ)とすること。また、その人間。人身供犠(じんしんくぎ)。
     2 集団または特定の個人の利益のために、ある個人を犠牲にすること。また、その個人。



―――――あとがき―――――
345hitゲッターの月の輪さんへの贈り物
リクエストbSの宮城教授のセクハラについて
…こんな内容じゃなかったんですよホントは…
題名が3回変わりましたからね
晴和は題名を考えるのが苦手…

月の輪さん
…リクエスト内容と合っていたでしょうか
こんな物でよろしければどうぞ





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