同じ風邪なのに何故こうも違うのか。








     正しい風邪のひきかた







「ウサギさん、ティッシュ取って」

美咲は昨日から風邪気味らしい。鼻水が止まらず、一箱使い切ってしまう勢いだ。
それにしても……

「以前も思ったんだが、お前の風邪はどうにもズクズクだな。
 風邪っていうと、もう少し色っぽい病気じゃないのか?」
「あのねウサギさん。風邪ってこういうもんなの。くしゃみ・鼻水・鼻詰まりって言うだろ!」
「そうか?」
「そうだよ。つーか、『熱でうるんだ目』『荒い息づかい』『乱れた肢体』なんて期待するほうが間違いだ!!」
「そんなことはない。大体俺の身近にはこんなズクズク状態のヤツがいなかったしな」
「へぇ?」
「信じてないな」
「当たり前だろ」

そう言いながら美咲はチーンと洟をかむ。つくづく色気とは程遠い。

「そこまで言うなら話してやろう。そう、あれは俺が小学生の頃――」








「ごめんください、宇佐見です。あの、弘樹に今日の分のプリント持ってきたんですけど」
「あら、秋彦くん。わざわざありがとう」
「えっと、弘樹、大丈夫ですか?」
「それがね、熱がなかなか下がらなくて。明日もお休みさせようと思ってるの」
「そう、ですか。あの、弘樹に会っちゃダメですか?」
「え、でも風邪うつるからやめた方がいいわよ」
「帰ったらちゃんとうがい手洗いします。だからちょっとだけでいいんで……。お願いします」
「じゃあ、約束ね。帰ったらちゃんとうがい手洗いしてね」
「はい」

部屋で横になっていた弘樹の息は荒くて、苦しそうだった。

「弘樹?」
「ん゛、秋彦?」

のどが腫れているんだろう、声を出すのも辛そうだった。

「熱高いって聞いたけど、大丈夫?」
「大分マシになった。でもお前、部屋に入ったらうつる」
「平気、おばさんと『帰ったらうがいと手洗いする』って約束したし」
「そっか」
 
そう言いながら弘樹は起き上がってきた。
無理しなくていい、と言って止めてもきかなかった。

「寝てたほうがいいんじゃないの?」
「ヘーキ。一日中寝てたから、眠れないし」
「ふーん。ほっぺ、真っ赤だね」
「さっき測ったら38度あった」

寝てたほうがいいんじゃないの。
もう一度そう言おうと思ったけど止めておいた。
絶対聞かないし、ヘタしたら怒鳴って、余計悪化しそうだったから。
代わりに、コツンとおでこを合わせてみた。
熱い。外が寒かったから余計にそう思った。

ついさっきまで熱で頭がボーっとしていたのか、グラグラと揺れていた弘樹の体が
今はピシッと固まってる。
さっきより顔が更に赤くなってる。無理して体を起こしていたからかな?

「弘樹」

やっぱり横になってたほうがいいよ、そう言おうと思った瞬間、

「な、」
「な?」
「なにすんだーーー!!」

そう叫んだ。
叫んだ直後に弘樹はパタリ、と前のめりに倒れた。
せっかく怒鳴らせないようにしたのにムダだった。

「頭に響くよ」

聞いてるコッチの頭にもひびくくらいだし、言った本人は相当ダメージを受けただろうな。
そのショーコにまだ倒れた体勢のままだ。

「お、お前が変なこというから」
「変? 変じゃないよ」
「家族なら変じゃないけど、友達同士で、なんて変だよ」
「そんなことないよ。弘樹は今、熱があるから変な風に考えすぎなんだよ」
「そう、かな?」
「そうだよ。ホラ、ちゃんと布団に入って寝なよ」

そう言いながら弘樹を布団に寝かせた。
まだダメージが残ってるのか、おとなしく布団にもぐっていった。
また騒がれると困るので、今度は手のひらをおでこに乗せた。

「熱いね」
「でも、気持いい。冷たくて。あったかいし、ちょっと、ねむい」
「じゃあ寝なよ。もうちょっとしたら帰るし」

そう言ったら、弘樹は素直に目を閉じた。
真っ赤なままのほっぺが少しでも早く治りますように、
そう思いながら眠った弘樹のほっぺにキスをした。





「――、」
「ウサギさん? どしたの、急に考え込んで」
「いや。なんでもない」
「ふーん。あ、ティッシュもう一枚」

なんだか甘酸っぱい過去を思い出した。
そうだ、俺の風邪の観念は弘樹から来ているらしい。
それはそうだな、自分じゃ自分の病状なんて解らないものだし。

「んで、ウサギさんの小学生の時の話はどうしたの」
「いや、もういい。ソイツとお前は一緒じゃないしな」
「ふうん? まあいっけど」

そう応えながら洟をかんでいる美咲を見て、思わず笑った。

「な、なんだよ」
「いいや?」

ズクズクになっていてもなかなかに可愛らしいものだな。
とはいえ、風邪を長引かせるのはよくない。ここは手っ取り早く、

「よし、俺が風邪を貰ってやろう」
「はい?」
「ベットに行くぞ、美咲」
「い、いらん。つーか寄んな。わ、どこ触って、や、やめて―――」





―――――あとがき―――――
風邪ネタ的にはギリギリの季節ですね。

今回のコンセプトはヒロさんウサギさんの行き過ぎた友情です。
そして、ウサギさんのあの色っぽすぎる認識はどこから来たのか、
ヒロさんからに決まってる。という妄想です。
私の原動力はヒロさんへの愛ですから。

それにしても久々の更新ですね。
なんだか随分文章の書き方が変わった気がします。
まぁ、もとから定まってなかったですが。


皆さんに楽しんでいただけると嬉しいです。
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